fc2ブログ
『この世の中、いつ何が起こるか分からねえ。今の自分にゃ考え及びもしねえことが、明日の自分に降りかかってるかも知れねえんだ。』

いつかイカルガの酒場で聞いた、客の男の言葉を今さらながら思い出した。

その時は、昨日の自分が考えもしなかったことが、今日の自分に降りかかるかも知れないなんて、考えたこともなかった。
食って寝て起きて、一日中脚が棒になるくらいこき使われて、そしてまた食って寝て起きて・・・その繰り返しが死ぬまで続くのだと思っていたから。
しばらくすると、革靴が駆けてくる音がまた聞こえてきた。
オレは、中将が去った時と同じく木のベッドの上に足を投げ出して座り、鉄の格子に背中を預けてその音を聞いていた。

「海賊、ミナト。」
オレの真後ろで止まった靴音は、オレの背中に声を掛けた。
さっき、中将を呼びに来た若い海軍兵の声だ。

「明日正午、港町の時計塔広場で処刑だ。」

若い海軍兵はそれだけ告げると、オレの返事も待たずに去って行った。

オレが、海軍の船で故郷のヤマトへ帰ることよりも、海賊になることを選んだ日の夜。
シンさんはオレに『後悔していないか』と尋ねた。
オレは、後悔しても何の足しにもならない。死ぬ時にまとめてすればいい。って答えた。

その時が、今なんだな。

もっと歳を取ってから、寿命が尽きて死ぬんだと思ってた。
首を刎ねるとか殺されるとか、何かや誰かに命を絶たれるなんてことはオレには関係ない世界の話で、人は時が来れば自然と天に召されるものだと思ってた。

『だからな、いいか、小僧。よく覚えとけよ。いつ何が起きてもいいように、今自分が一番やりたいと思うことは必ずやっておけ。やるかやらないか、迷った時もとりあえずやっておけ。いいな。』

また、男の言葉を思い出した。
シリウスに転がり込んで間もない頃、オレが一番やりたいことは、シンさんのそばにいることだった。

シンさんとたくさん話をして、シンさんの横に並んで立って。
シンさんと同じものをこの目で一緒に見ることだった。

シンさんは『俺の傍にいろ』と言ってくれたのに・・・オレはバカだ。

膝がしらを引き寄せてこぼれそうになる涙をこらえた。
でもダメだった。
こらえきれない涙が後から後からあふれて来て止まらない。

初めてシリウスのみんなに会った日、自分の置かれた身の上が哀れで甲板でこうして泣いていたら、ソウシさんが頭をなでてくれたっけ。
でもそれももう叶わないことなんだな。

ずずっと鼻を啜りあげた。オレの服からシンさんの匂いはしない。
それもそのはずだ。これは、ソウシさんが市場からオレのために買ってきてくれたものだから。

せめて最期は、シンさんの匂いに包まれていたかったな。
バカだクズだと罵られていても、すぐそばにシンさんを感じていられるっていうのは、それだけで幸せなことだったんだと、失って初めて気が付いた。

でも、もう遅い。
もう届かない。

どんなに泣いてもわめいても、明日、オレの首が胴体から離れればそれでおしまいだ。
『自分が一番やりたいと思うこと』、果たせなかった。

そばにいて、顔を見て、話ができればそれだけでいいなんて、嘘だ。

シンさんが他の誰を好きでも、オレのことなんて好きになってもらえなくても。
それでもいい。シンさんに、オレの気持ちを知ってもらいたかった。



・・・シンさんに、好きだって伝えたかった。
それだけが、悔やまれる。

オレが生まれ育った国、ヤマトには、人は死んでもまた次の新たな人生に生まれ変わる、という言い伝えがある。
オレはもう、ミナトである人生をやり直すことはできないけれど、次に生まれ変わってくることができたなら、その時は想いを寄せた人にはためらわずに自分の心を告げよう。

ただそばにいられればそれでいいとか、姿を見られれば、声が聴ければ、なんて言い訳をしている暇はない。
もしも想いは届かなくても、伝えることが大事だったんだ。



・・・さよなら、シンさん。


――――――――――――――――――――――――――――――

  


いつも当サイトへお越しいただきありがとうございますm(__)m
毎週土曜日21時に連載しております「太陽と、月のあいだ」ですが
今週でいったんお休みさせて頂きます。
代わりにと言ってはなんですが(;^ω^)
来週から何回か、別の2次を上げさせて頂きます。

目下ハマり中の「ST」の2次なんですが(;´・ω・)
ドラマは終わったというのに💦
しかもドラマをご存知の前提っていう(。-人-。) ゴメンネ


お楽しみに・・・していただくほどのアレじゃないんですが(;'∀')

STの後にまた、「太陽~」は再開する予定でおりますので
よろしくお願い申し上げますm(__)m


よかったらこちらも覗いてみて下さい

素敵なサイト様がたくさん お気に入りの小説が見つかるかも


↓↓↓お気に召しましたらポチッと押して頂きますと、大変嬉しいです♪
関連記事
スポンサーサイト




2014.10.25 Sat l 恋に落ちた海賊王 l コメント (0) トラックバック (0) l top

コメント

コメントの投稿












トラックバック

トラックバック URL
http://futariainovels.blog5.fc2.com/tb.php/297-18e631b7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)